3. こんな時どのような運動をすればよいのですか?

正しく安全に運動するためのポイント

(1)訓練や運動の原則

1 等尺性運動による筋力強化を原則とする
 

筋力を強くする運動には、等尺性(関節を動かさない筋肉の収縮、筋の長さは一定)と等張性(関節を動かす筋収縮、張力は一定)があります。関節障害のある患者さんには関節に過剰な負荷をかけないことが大切なので、障害を生じた部位には原則として等尺性筋収縮運動を行います。例えば、膝のマッスルセッティングは等尺性運動であり、この運動は、血友病性関節障害の部位に多少出血があっても安全に実施することができます。ゴムバンドや鉄アレイを利用した運動は等張性運動になります。
 

2 必要な内容を必要最小限行う
 

関節可動域訓練や筋力強化訓練は大変重要である反面、単調で飽きやすく、仕事を持っている忙しい患者さんにとっては面倒でもあります。また、訓練時間を2倍にすれば効果が2倍になるわけでもありません。したがって、その患者さんにとって本当に必要な内容を必要最小限の範囲内で行うことが、最も効率的であると同時に、長続きする秘訣でもあります。
 

膝のマッスルセッティングでは、最大筋力の2/3以上の強さで収縮を1回につき5秒間、5回繰り返すと効率よく筋力は増加しますが、これ以上時間や回数を増やしても筋力増強効果はそれほど大きく変わりません。したがって、筋収縮は50回ではなく5回行ったほうが効率的であり、そのぶん貴重な時間は実生活のために使うほうが賢明だといえます。
 

3 忘れてもよいので継続する
 

毎日決められた時間に決められた訓練を行うには、強い意志と忍耐が要求されます。血友病は一生つき合っていく病気ですので、無理をして集中的に訓練や運動を自らに課すよりは、むしろ忘れてもいいから気長に継続して行うことが大切です。
 

例えば、前述の「マッスルセッティング」という筋力強化訓練では、最大の力を入れたまま5秒間、大腿四頭筋(太股の前の筋肉)を収縮させるのを5回繰り返します。これを1週間に5日以上行うわけですが、用事があってできなかったり忘れたりすることもあるので、1週間のうち5日実施すればよいと割り切って考えることが継続のための秘訣です。
 

4 無理な矯正はしない
 

関節可動域訓練では、膝を伸ばす・曲げるなど、関節を持続的に引き伸ばして関節包(関節の周りを包む組織)、筋・筋膜、腱、その他の関節に結合する組織を伸張します。血友病の患者さんは、関節内や筋肉内に出血を起こすと止血が困難なため、通常は強い矯正を加えません。自分が動かせる範囲内で目一杯に曲げ伸ばしはしても、他者が力を加えて矯正したり、自らの体重をかけて無理に曲げたりはしないで下さい。矯正を加えるのは、入院して製剤を投与しながら専門家が行う場合のみに限られています。
 

5 訓練よりも生活の活性化が大切です
 

訓練として筋力強化や関節可動域の訓練をするよりも、日常生活の中で筋収縮を行って関節を動かすことが大切です。下肢の筋力は関節障害が生じると低下します。車での送迎による通勤・通学や、外出をせず閉じこもりがちな生活などは、筋力を一層低下させてしまいます。普段から消極的な生活や過度の閉じこもりを避けることこそ、最良の訓練だといえます。
 

なお、個別的な筋力強化訓練は、これらの生活上の配慮をしても改善しない場合に限って行って下さい。また、関節可動域訓練も訓練として行うのではなく、日常生活の中で習慣として、関節を動かし可動域を維持するほうが望ましいと考えます。