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血友病患者にスポーツを安全に楽しんでもらう秘訣とは

德川 多津子 先生

兵庫医科大学病院  血液内科 助教
德川 多津子 先生

血友病患者にさまざまな面で恩恵をもたらすスポーツ


 適度な運動やスポーツにより、筋肉を発達させることは関節の負担を軽減し、関節内の自然出血の抑制が期待できる。また、肥満を防ぎ血管が確保しやすくなるため、定期補充における自己注射も容易となる。近年、血友病患者で増加が懸念されている高血圧や糖尿病といった生活習慣病予防の観点からも、運動やスポーツは有用である。さらに、自己効力感やコミュニケーション能力を向上させるという点も忘れてはならない。

 

 仲間や指導者と協力して勝ち取った成功体験は大きな自信につながり、たとえ挫折を味わったとしても、それを乗り越えることが大切な人生経験となる。場合によっては、活動中の外傷性出血に自分で対応しなければならないケースもあるかもしれない。確かに出血自体は避けたい事態ではあるが、自身の判断でトラブルに向き合う経験は、疾患への理解をより深め、セルフマネジメント能力を身に付けるきっかけとなりうる。そうした点からも、血友病患者がスポーツを行うことの意義は大きい。

個々の患者の状態に合わせた適度な強度の運動を提案


 定期補充療法の浸透でスポーツを楽しむ血友病患者は増加しているものの、日常的に行っている割合は24%とそれほど高くないのが現状である 1。もちろん、関節状況や参加する種目によっては、出血や外傷を引き起こす危険性があることも否定できない。そこで、患者にスポーツを推奨する際、注意したい点について概説する。

 

 どのようなスポーツを行うのがよいのか。米国血友病財団(NHF)は、活動強度に基づきスポーツの種目を低リスク(カテゴリー1)から高リスク(カテゴリー3)の5段階に分類したリストを公開しており、カテゴリー1~2の種目に関してはリスクよりもベネフィットが上回るとしている 2。オーストラリアの報告では、活動中の凝固因子活性レベルは、ボディーコンタクトがあまり多くないカテゴリー2の種目で40~60%程度、非常に多いカテゴリー3の種目では80%以上が必要とされている(表)3

 

 しかし、これらの数字はあくまで目安にすぎず、個々の患者の運動経験や筋肉量、関節状況により出血リスクは大きく異なる。幼いころからあまり体を動かさず、運動経験もないような患者では、強度の低い種目でも関節内出血などを来す場合があるだろう。また、活動内容によって強度(カテゴリー)が変化する種目も存在する。例えば、サッカーのカテゴリーは2~3とされているが、練習内容や試合などのシチュエーション、そしてポジションなどで出血リスクが異なる。同様に、カテゴリー2に設定されているランニングでも、短距離と長距離でリスクは変わるだろう。患者がどの種目にどの程度取り組みたいか、そして参加する状況頻度、さらに血友病の重症度や使用製剤の特徴、体内薬物動態を把握した上で、個々に合った治療計画や推奨される種目を提案する必要がある。

運動推奨時における患者とのコミュニケーションの秘訣


 活動強度の高さなどから、患者が希望するスポーツへの参加が許容できないケースも出てくるだろう。そのような場合でも、「血友病だからできない」とただ否定して患者の意欲をそぐような言動は、血友病である自分を受容できなくなったり、自己否定につながる危険性がある。なぜ許容できないのかを十分に説明し、もし可能性が見出せるのであれば落としどころに向けて調整していくような対話を行う姿勢が重要である。患者が小児の場合、そういったコミュニケーションは医師と両親間で行われるケースも多いが、自分自身の状況を知っておくためにも、できる限り本人を会話に参加させる必要がある。

 

 血友病患者は、自立した生活を送るために自分自身で止血管理や出血時の対応を行う必要があり、そのためには疾患への理解が非常に重要となる。スポーツは、それを促すよいきっかけとなり、また診療におけるコミュニケーションツールとしても有効に作用することが期待できる。

 

 血友病患者にさまざまな肉体的・精神的恩恵をもたらす点からも、許容できる範囲でスポーツへの参加を推奨していきたい。

表.カテゴリー別に見たスポーツ種目と凝固因子活性レベルの目安

表.カテゴリー別に見たスポーツ種目と凝固因子活性レベルの目安
德川多津子:Hemophilia Topics vol. 42, 2017より一部変更
  1. 血友病QOL調査委員会.「血友病患者のQOLに関する研究」令和2年度調査報告書.
  2. National Hemophilia Foundation. Playing it Safe Bleeding Disorders, Sports and Exercise.
  3. Broderick CR. et al. JAMA 2012; 308: 1452-1459.
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